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双極性感情障害

双極性感情障害について

双極性感情障害

歴史

躁病、うつ病の歴史は古く、紀元前400年には「マニア」「メランコリア」という用語が登場します。1854年にはうつ病と躁病が交互におこる「循環精神病」について記述され、1882年には「循環症」として、これらを同一疾患の過程としました。これが現在の躁うつ病の原型となっています。

疫学

生涯のうちに発症する割合は、双極I型障害2%前後、双極II型障害4%前後、気分循環性障害6%前後です。発症年齢はうつ病より早く、平均30歳程度ですが、小児期から50歳頃と幅広い年齢で発症します。疾患の割合に男女差はありませんが、症状でみると、男性は躁病エピソード、女性はうつ病エピソードが多いです。遺伝要因もあり、躁うつ病の家族歴があると発症リスクが高くなり、疾患が重篤なほど遺伝リスクが高まります。また、躁うつ病の家族歴があるとうつ病のリスクも高まることから、うつ病と躁うつ病はある程度共通した遺伝的基盤があると考えられています。

病因

1.生物学的要因
モノアミンと呼ばれる神経伝達物質の一部(ドパミン、アセチルコリンなど)の増減と躁病、うつ病と関連することから、これらの関わる神経回路の機能失調と躁うつ病が関連するとの仮説があります。
また、神経伝達物質は、受容体と結合するとG蛋白を介して第二メッセンジャーと呼ばれる神経伝達物質の組成を制御しますが、気分安定薬がこのG蛋白や第二メッセンジャーに作用することから、これらも病因に関わっていると考えられています。脳画像では、皮質下領域の神経変性を認め、発症に伴う有害性を反映していると考えられます。また、脳機能では前頭葉の機能低下を認め、とりわけ躁病相では右半球、うつ病相では左半球と、活動性の低下が反転します。
2.心理社会的要因
初発前のストレスエピソードが、脳に持続的な生物学的変化をもたらすとの仮説がたてられています。初発時はストレスが誘因となることが多いですが、2回目以降はストレスがなくとも再発しやすくなります。

診断

診断確定に有効な検査方法がなく、臨床症状のみで高い信頼性で診断するための国際的な診断基準(操作的診断基準)が設けられています。ここでは「DSM-5」の診断基準を元に、簡易にしたものを紹介します。
以下のチェック項目を見てください。抑うつエピソードと共に、経過中に躁病エピソードとが見られる場合は双極Ⅰ型障害、軽躁病エピソードが見られる場合は双極Ⅱ型障害、これらを満たさない程度の動揺が慢性的に持続する場合は気分循環性障害と診断します。

躁病
  1. 気分が高揚し、開放的または易怒的となる、また活動や活力が亢進している期間が、少なくとも1週間、ほぼ毎日、1日の大半で持続する(入院治療が必要な場合は期間を問わない)
  2. 上記期間中、以下の症状のうち3つ以上(気分が易怒性のみの場合は4つ以上)がある
    1. 自尊心の肥大、または誇大
    2. 睡眠欲求の減少
    3. 普段より多弁、しゃべり続けようとする切迫感
    4. 考えが次々とわく、いくつもの考えがせめぎあう
    5. 注意散漫
    6. 目標指向性の活動増加、もしくは精神運動焦燥
    7. 困った結果につながる可能性の高い活動(浪費や性的無分別など)に熱中する
  3. その症状は、社会的に著しい障害を引き起こしている、あるいは自分や他人に害を及ぼすのを防ぐため入院が必要である、または精神病性の特徴を伴う
  4. その症状は、物質(乱用薬物、医薬品など)の作用や他の疾患によるものではない

※上記A~Dに該当すれば「躁病エピソード」と診断します。また、Aにおいて期間が4日間以上、Cにおいて、他者からみて変化が認められるが社会で障害を引き起こすレベルではなく、精神病性の特徴もない場合は「軽躁病エピソード」とします。

抑うつ

うつ病の診断基準をご参照ください。躁病/軽躁病エピソードがなければうつ病、あれば躁うつ病の抑うつエピソードとします。

経過

7割前後は抑うつエピソードで始まります。過眠、精神運動制止、精神病症状、産後の発症、双極Ⅰ型障害の家族歴、抗うつ薬による軽躁病の誘発などは躁うつ病の可能性を疑って経過をみます。躁うつ病のほとんどはうつと躁が両方出現しますが、1~2割は躁のみ経験します。
躁病エピソードは急性発症が多く、未治療だと3ヶ月ほど続くことが多いです。躁病エピソードを初回発症すると、次の再発率は9割です。また、進行するにつれてエピソードの間隔が短縮し、5回目の再発以降は6~9ヶ月間隔程度に落ち着くようです。

予後

うつ病より予後不良で、半数近くは初発から2年以内に躁を呈します。予防投与である程度改善しますが、十分に症状が制御されるのは5~6割程度です。双極I型障害では再発しないのは1割以下で、4割は慢性の経過をたどります。双極II型障害は、双極I型障害へ移行しないことが多いですが慢性的な経過をたどりやすいです。予後良好の因子は、躁病エピソードが短期である、発症が遅い、自殺念慮がない、精神疾患や身体疾患を併発していないなどです。

治療

1.薬物療法
気分安定薬として炭酸リチウムが基本ですが、効果の発現が遅い、厳密な血中濃度の管理のため頻回に血液検査が必要である、過剰摂取した場合の危険が大きいなどから、抗てんかん薬系気分安定薬や抗精神病薬を使うこともあります。急性の躁病にはバルプロ酸、カルバマゼピン、抗精神病薬、急性のうつ病にはラモトリギンの併用が効果的です。抗うつ薬を併用することもありますが、躁うつ病には反応しないことが多く、躁転リスクもあるため、気分安定薬の併用下で慎重に行います。再燃予防としては、炭酸リチウム、バルプロ酸、カルバマゼピンなどが用いられます。ラモトリギンは躁の再燃予防効果は乏しいものの、うつの再燃予防効果が高く、うつを制御できない場合に併用することがあります。
2.心理社会的治療
患者本人や家族が疾患を受容していくこと、自分自身の状態に注意を払い、疾患の性質、治療方法、再発の初期兆候、ストレス対処法を理解していくことを手助けしていきます。

躁うつ病は再発を繰り返しながら進行する慢性疾患です。早期の治療と再発予防を行いましょう。

※米国の代表的な精神医学の教科書であるカプランを基に、各精神疾患について解説します。