うつ病の歴史は古く、紀元前400年には「メランコリア(melancholia)」という用語登場します。西暦30年頃には、この「メランコリア」が「黒(melan)胆汁(chole)によるうつ病」として記載され、1621年には「うつ病」について記載された教科書が出版されています。
その病因については、今日まで生物学的要因、遺伝要因、心理社会的要因など、様々なアプローチから解明が試みられていますが、今なお仮説段階、というのが現状です。
約10人に1人(調査によってはその倍近く)が経験する疾患です。女性は男性の約2倍です。20~50歳(平均40歳程度)で発症しますが、小児や高齢者でも発症する可能性があります。遺伝性があり、リスクは両親の片方が気分障害だと10~25%、両親とも罹患していると約2倍になるようです。社会経済的地位や人種と発症のしやすさは関連ありません。
精神疾患では、診断確定に有効といえるレベルの検査方法がない、もしくは研究レベルでの検査にとどまるのが現状です。このため、臨床症状のみで高い信頼性で診断するための国際的な診断基準(操作的診断基準)が設けられています。
ここでは、「DSM-5」の診断基準を元に、簡易にしたものを紹介します。
※上記A~Eを満たす場合にうつ病と診断することになります。なお、この診断基準を満たさない程度の抑うつが慢性的に続くものを「気分変調症」といい、やはり治療の対象となります。
未治療だと半年から1年以上、十分に治療しても3ヶ月以上続くケースが多いです。寛解前に抗うつ薬を中止すると、再発することがほとんどです。症状が進行するとより頻回に再発し、再発時のエピソードも長期間となる傾向があります。
また、寛解率が下がり、気分変調症へと以降する割合が増えます。初発のうつ病患者のうち、5~10%はその後躁病エピソードがおこり、躁うつ病に診断変更となります。うつ病の診断基準を満たしていても、過眠、精神運動制止、精神病症状、産後の発症、双極Ⅰ型障害の家族歴、抗うつ薬による軽躁病の誘発などは特に躁うつ病の可能性があるため、注意深く治療と観察を行う必要があります。
気分変調症の併発、アルコール等の依存物質の乱用、不安症状、抑うつエピソードが複数回あるなどは予後不良の指標となります。男性より女性のほうがより慢性の経過をたどりやすいようです。再発率は、予防的な内服加療により減らすことができます。
症状の残存は予後不良の指標であり、寛解を目指すこととなります。また、慢性疾患であり再発しやすいため、寛解後の再発予防も重要です。
発症の経緯、症状の出方、併存疾患の有無などで個人差が大きく、治療方法やカウンセリングも個々で変わってきます。早い段階からかかりつけを作るとよいでしょう。
※米国の代表的な精神医学の教科書であるカプランを基に、各精神疾患について解説します。