大森こころクリニック

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発達障害

自閉症スペクトラム障害について

自閉症スペクトラム障害

以前は広汎性発達障害と呼ばれ、自閉性障害、アスペルガー症候群、小児期崩壊性障害、レット障害、特定不能の発達障害の5つに分けて考えられていました。
しかし、近年ではこれらは連続性のある疾患の、症状の不均一さによる違いとして捉えられ、「社会的コミュニケーション障害」「限定された反復的な行動」の2つの中核症状を持つ疾患である「自閉症スペクトラム障害」としてまとめられています。

疫学

有病率は1%強です。また、男児は女児の約4倍とされます。遺伝的な要因が関与しており、同胞内で2人以上自閉症スペクトラム障害を持つ家庭内では、発症率は50%程度となります。

診断

診断は臨床症状のみで行うため、高い信頼性で診断するための国際的な診断基準(操作的診断基準)が設けられています。
ここでは、「DSM-5」の診断基準を元に、簡易にしたものを紹介します。以下のチェック項目を見てください。

  1. 複数の状況で社会的コミュニケーション及び対人的相互反応における持続的な欠陥があり、以下のような例で明らかになる
    1. 相互の対人的-情緒的欠落。例えば、対人的に異常な近づき方、通常の会話のやりとりができない、興味・情動・感情を共有することの少なさ、社会的相互反応を開始したり応じたりすることができないなど
    2. 対人的相互反応で非言語的コミュニケーション行動を用いることの欠陥。例えば、まとまりの悪い言語的・非言語的コミュニケーション、アイコンタクトやジェスチャーが異常もしくは使えない、相手のそれらを理解できない、表情を読み取れないなど
    3. 人間関係を発展させ、維持し、それを理解することの欠陥。たとえば、社会的状況にあった振る舞いの困難、想像上の遊びを他者と一緒にできない、友人を作れない、仲間に対する興味が乏しいなど
  2. 行動、興味、活動の限定された反復が以下により明らかになる
    1. 常同的または反復的な体の運動、物の使用、会話。例えば、繰り返し物を一列に並べる、物を叩く、同じ言葉を言う、独特な言い回しをするなど
    2. 同一性への固着、習慣への頑ななこだわり、言語的・非言語的な儀式的行動
    3. 一般的でない対象への強い固執、興味、没頭
    4. 感覚刺激に対する過敏さまたは鈍感さ、環境の感覚的側面への並外れた興味
  3. 症状は発達早期から存在している(ただし、社会的要求が能力の限界を超えてから明らかになったり、生活で学んだ対応によって症状が覆い隠されることがある)
  4. その症状が社会的機能に障害を引き起こしている
  5. 知的能力障害や全般的発達遅延ではうまく説明されない。知的能力障害と自閉症スペクトラム障害はしばしば併存するが、その場合は、社会的コミュニケーションが全般的な発達の水準から期待されるものより下回っていることが必要

※上記A~Eを満たすと自閉症スペクトラム障害と診断されます。

治療

1.薬物療法
自閉症スペクトラム障害の中核症状を改善する薬はなく、関連する行動上の症状を改善する目的で使用されます。易刺激性(かんしゃく、攻撃性、自傷行為など)の改善には抗精神病薬、合併するADHD症状(多動性、衝動性、不注意など)にはADHD改善薬、反復的な常同行動には抗うつ薬や気分安定薬などが使用されます。
2.心理社会的治療
不安、抑うつ、強迫症、反復的な行動、不眠などに認知療法、行動療法が有効です。環境調整も重要で、職場の仕事内容が特性に合わないと不適応によるストレスから二次障害(適応障害、うつ病等)をきたすことがあります。発達障害者支援センター、障害者職業センター、就労移行支援事業などでは、仕事に関する相談や、就労に向けての手助け、訓練などを受けることができます。一般企業への一般就労・障害者枠就労を目指すことが不安な場合は、就労継続支援事業所で雇用の機会を得ることもできます。生活を整えていきたい場合は、クリニックや保健所等で行われているデイケアを利用するとよいでしょう。

注意欠陥多動性障害(ADHD)について

注意欠陥多動性障害(ADHD)

ADHDは学童の5~8%にみられ、そのうち6~8割は思春期でも診断基準を満たし、その6割は成人後も続きます。男性は女性の2倍以上の有病率です。遺伝的要因が大きく、家族がADHDの場合の発生率は2倍以上となります。

病因

ドパミンとノルアドレナリンに作用する精神刺激薬がADHDを改善させることから、この2種の神経回路の機能不全が想定されています。ドパミンD4受容体の遺伝子とADHDが関連することが明らかになっています。注意の主要な働きを担う青斑核(ノルアドレナリン神経系の中枢)も関わっていると考えられています。画像上では、前頭前皮質、前部帯状回、淡蒼球、尾状核、視床、小脳の容積減少や機能低下を認めます。これらは、注意や衝動性の制御、運動実行機能などに関わる部位です。

診断

診断は臨床症状のみで行うため、高い信頼性で診断するための国際的な診断基準(操作的診断基準)が設けられています。
ここでは、「DSM-5」の診断基準を元に、簡易にしたものを紹介します。

  1. 1、及び2によって特徴付けられる、不注意/多動性・衝動性
    1. 不注意:以下のうち6つ以上が6ヶ月以上続いたことがあり、その程度は発達の水準に不相応で、社会的に障害がある
      1. 綿密に注意することができない、または不注意な間違いをする(細部を見過ごす、作業が不正確など)
      2. 課題や遊びなど活動の最中などに、しばしば注意を持続できない
      3. 直接話しかけられたときに、しばしば聞いていないように見える
      4. しばしば指示に従えず、学業、用事、業務などの義務をやり遂げられない
      5. 課題や活動を順序だてることがしばしば困難である
      6. 精神的努力の持続を要する課題に従事することをしばしば避ける
      7. 課題や活動に必要なもの(鉛筆、書類など)をしばしばなくしてしまう
      8. 外的な刺激や無関係な考え事ですぐに気が散ってしまう
      9. 日々の活動で忘れっぽい
    2. 多動性および衝動性:以下のうち6つ以上が6ヶ月以上続いたことがあり、その程度は発達の水準に不相応で、社会的に障害がある
      1. しばしば手足をそわそわ動かす、トントン叩く、椅子の上でもじもじする
      2. 席についていることが求められる場面でしばしば席を離れる
      3. 不適切な状況でしばしば走り回ったり高いところに登る
      4. 静かに遊んだり余暇活動につくことがしばしばできない
      5. しばしば、じっとしていない、またはエンジンで動かされるように行動する
      6. しばしばしゃべりすぎる
      7. しばしば質問が終わる前に出し抜いて答え始めてしまう
      8. しばしば自分の順番を待つことができない
      9. しばしば他人を妨害し、邪魔する
  2. 不注意または多動性・衝動性の症状のうちいくつかが12歳より前から存在していた
  3. 注意または多動性・衝動性の症状のうちいくつかが2つ以上の状況で存在する(家庭と職場など)
  4. これらの症状が社会的機能を損なわせている
  5. その症状は統合失調症、または他の精神病性障害の経過中にのみ起こるものではなく、他の精神疾患ではうまく説明されない

※上記A~Eを満たすとADHDと診断されます。

経過と予後

疫学で述べたとおり、成長に伴い4割前後は完解します。多動性から消失しやすく、不注意は残存しやすいです。ADHDの症状が思春期まで持続すると、素行症を呈するリスクが高くなります。ADHDに素行症が併存すると、物質関連障害に至るリスクが高くなります。崩壊家庭、ネガティブなライフイベント、素行症、うつ病、不安症などの併存があると慢性的な経過をたどりやすく、なるべく早期に改善することで予後を改善できます。

治療

1.薬物療法
精神刺激薬としてメチルフェニデートやアンフェタミン、非精神刺激薬としてアトモキセチンがあります。いずれも、ドパミン、ノルアドレナリンの再取り込みを抑制することで働きを活性化する薬です。精神刺激薬は数回程度の使用で効果を実感しやすい一方、乱用や依存のリスクがあるため、医師の取り扱いに制限があるなどの流通管理がなされている薬です。非精神刺激薬は効果実感まで1~2ヶ月かかりますが、乱用や依存のリスクはほとんどありません。
2.心理社会的治療
薬物療法と併用して、認知療法、行動療法などが行われます。社会技能を獲得し、行動変容を通して集団への適応や自尊心を高めていきます。

※米国の代表的な精神医学の教科書であるカプランを基に、各精神疾患について解説します。