大森こころクリニック

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うつ病

うつ病について

うつ病

歴史

うつ病の歴史は古く、紀元前400年には「メランコリア(melancholia)」という用語登場します。西暦30年頃には、この「メランコリア」が「黒(melan)胆汁(chole)によるうつ病」として記載され、1621年には「うつ病」について記載された教科書が出版されています。
その病因については、今日まで生物学的要因、遺伝要因、心理社会的要因など、様々なアプローチから解明が試みられていますが、今なお仮説段階、というのが現状です。

疫学

約10人に1人(調査によってはその倍近く)が経験する疾患です。女性は男性の約2倍です。20~50歳(平均40歳程度)で発症しますが、小児や高齢者でも発症する可能性があります。遺伝性があり、リスクは両親の片方が気分障害だと10~25%、両親とも罹患していると約2倍になるようです。社会経済的地位や人種と発症のしやすさは関連ありません。

病因

1.生物学的要因
モノアミンと呼ばれる神経伝達物質の一部(ノルエピネフリン、セロトニン、ドパミンなど)の低下でうつがおこり、増加で改善することから、これらモノアミンの関わる神経回路の機能失調とうつ病が関連するとの仮説があります。
また、人生早期に重篤なストレスにさらされると、ストレス反応(HPA活性)が永続的に上昇し、うつ病発症の土台となるようです。甲状腺機能の低下や反応不良もうつ病発症に関与します。脳画像では、皮質下領域での神経変性、海馬や尾状核の容積減少などが一部で認められます。
また、前頭葉全体、とりわけ左半球での代謝低下を認め、重症者や家族歴のある方では大脳辺縁系での代謝亢進が認められます。これは、うつ病特有の認知機能障害や侵入的反芻思考に関わっていると考えられます。
2.心理社会的要因
最初の発症前のストレスが脳に持続的な生物学的変化をもたらすと言われています。
初発前には誘因となるストレスがあることが多いですが、2回目以降はストレスがなくとも再発しやすくなります。配偶者を失う、失業、自尊心が傷つけられる体験などのエピソードは特にうつ病の発症のリスクとなります。

診断

精神疾患では、診断確定に有効といえるレベルの検査方法がない、もしくは研究レベルでの検査にとどまるのが現状です。このため、臨床症状のみで高い信頼性で診断するための国際的な診断基準(操作的診断基準)が設けられています。
ここでは、「DSM-5」の診断基準を元に、簡易にしたものを紹介します。

  1. 以下の9つのうち5つ以上があてはまり、そのうち少なくとも一つは1か2で、いずれもこの2週間、ほぼ一日中、ほぼ毎日持続する
    1. 悲しみ、空虚感、または絶望を感じる
    2. 活動における興味、または喜びが著しく減退している
    3. 食欲が変調し、体重が減少する、もしくは増加する
    4. 不眠、もしくは過眠がある
    5. 他者から見て、焦燥、もしくは活動の低下がある
    6. 疲労感がある、または気力が減退している
    7. 自分を無価値に感じる、または罪責感を過剰、または不適切に感じる
    8. 思考力や集中力が減退する。または決断が困難になる
    9. 死について繰り返し考える。死にたいという気持ちやそのための計画が思い浮かぶ
  2. その症状が苦痛や社会的な機能の障害を引き起こしている
  3. そのエピソードは、物質の生理学的作用、または他の医学的疾患によるものではない
  4. 抑うつエピソードは、統合失調感情障害、統合失調症、統合失調症様障害、妄想性障害、または他の特定および特定不能の統合失調症スペクトラム障害および他の精神病性障害群によってはうまく説明されない
  5. 躁病エピソード、または軽躁病エピソードが存在したことがない

※上記A~Eを満たす場合にうつ病と診断することになります。なお、この診断基準を満たさない程度の抑うつが慢性的に続くものを「気分変調症」といい、やはり治療の対象となります。

経過

未治療だと半年から1年以上、十分に治療しても3ヶ月以上続くケースが多いです。寛解前に抗うつ薬を中止すると、再発することがほとんどです。症状が進行するとより頻回に再発し、再発時のエピソードも長期間となる傾向があります。
また、寛解率が下がり、気分変調症へと以降する割合が増えます。初発のうつ病患者のうち、5~10%はその後躁病エピソードがおこり、躁うつ病に診断変更となります。うつ病の診断基準を満たしていても、過眠、精神運動制止、精神病症状、産後の発症、双極Ⅰ型障害の家族歴、抗うつ薬による軽躁病の誘発などは特に躁うつ病の可能性があるため、注意深く治療と観察を行う必要があります。

予後

気分変調症の併発、アルコール等の依存物質の乱用、不安症状、抑うつエピソードが複数回あるなどは予後不良の指標となります。男性より女性のほうがより慢性の経過をたどりやすいようです。再発率は、予防的な内服加療により減らすことができます。

治療

症状の残存は予後不良の指標であり、寛解を目指すこととなります。また、慢性疾患であり再発しやすいため、寛解後の再発予防も重要です。

1.薬物療法
薬物療法に反応する場合、短期で寛解に至る可能性が高くなります。抗うつ薬の使用にあたっては、量が少なすぎる、使用期間が短すぎる、といったことが失敗に終わる最多の原因です。推奨用量まで十分使用した上で薬効をみること、十分な期間(4~5週間)経過するまでは無効の判断をしないことが重要です。
また、有効と判断した場合は寛解まで継続するだけでなく、寛解後も予防投与が必要です。期間としては、初回のエピソードであれば少なくとも半年~1年、再発の場合はさらに長期間必要で、特に前回のうつ病エピソードから2年半以内での再燃の場合、5年間は予防投与が必要とされます。
2.心理社会的治療
うつ病に対する効果が十分検討されている治療法としては、対人関係療法、認知療法、行動療法があります。社会機能の低下が少ない場合、抑うつが重度の場合は対人関係療法、認知機能障害が軽度の場合は認知行動療法の反応が良いようです。

発症の経緯、症状の出方、併存疾患の有無などで個人差が大きく、治療方法やカウンセリングも個々で変わってきます。早い段階からかかりつけを作るとよいでしょう。

※米国の代表的な精神医学の教科書であるカプランを基に、各精神疾患について解説します。