大森こころクリニック

大森こころクリニック

睡眠障害

睡眠障害について

睡眠障害

正常な睡眠

睡眠の状態は、睡眠ポリグラフという検査により記録することができます。正常な睡眠は、レム睡眠とノンレム睡眠という、質の異なる2つの睡眠により構成されています。

ノンレム睡眠時はほとんどの生理機能が低下する一方、レム睡眠時は覚醒時と同様の活発な脳活動が行われています。健常成人では、ノンレム睡眠で入眠し、入眠後90分程度でレム睡眠に切り替わりますが、うつ病やナルコレプシーではこれが短縮します。レム睡眠は90~100分間隔で現れ、初回は10分未満、2回目以降は15~40分続き、トータルで睡眠全体の25%ほどですが、若年者ではこの割合が大きく、高齢者では割合が少なくなります。

疫学

日本人の約20%は不眠症を発症しており、高齢になるとその割合はさらに増えます。また、約15%は日中の眠気に悩み、約6%はアルコールか薬を常用しているとのデータがあります。

診断

診断は臨床症状のみで行うため、高い信頼性で診断するための国際的な診断基準(操作的診断基準)が設けられています。
ここでは、「DSM-5」の診断基準を元に、簡易にしたものを紹介します。

  1. 睡眠の量または質の不満に関する顕著な訴えが、以下の症状のうちひとつ以上伴っている
    1. 入眠困難
    2. 頻回の覚醒、または覚醒後に再入眠できないことによって特徴付けられる、睡眠維持困難
    3. 早朝覚醒があり、再入眠できない
  2. その睡眠の障害は、臨床的に意味のある苦痛、または社会的、職業的、教育的、学業上、行動上、または他の重要な領域における機能の障害をひきおこしている
  3. その睡眠困難は、少なくとも1週間に3夜で起こる
  4. その睡眠困難は、少なくとも3ヶ月間持続する
  5. その睡眠困難は、睡眠の適切な機会があるにもかかわらず起こる
  6. その睡眠今案は、他の睡眠覚醒障害(ナルコレプシー、睡眠時無呼吸症候群、概日リズム睡眠障害など)では十分に説明されず、またはその経過中にのみ起こるものではない
  7. その睡眠困難は、物質(乱用薬物、医薬品など)の生理学的作用によるものではない
  8. 併存する精神疾患および医学的疾患では、顕著な不眠の訴えを十分に説明できない

※上記A~Hを満たすと、睡眠障害と診断されます。

治療

睡眠障害は、ほとんど全ての精神疾患でみられます。かつては、不眠そのものよりもその背景となる疾患の治療を優先する治療が行われてきましたが、現在、不眠症を独立した疾患として扱い、不眠による苦痛の緩和を優先して治療されるようになっています。

1.薬物療法
眠剤としてはベンゾジアゼピン系薬が一般的ですが、メラトニン受容体作動薬も入眠困難に有効です。また、オレキシン受容体拮抗薬など、新しい眠剤も発売されています。市販薬(処方箋を必要としないOTC医薬品)では抗ヒスタミン薬や蛋白質先駆体など種々の薬が発売されていますが、処方薬と比較すると臨床的裏付けにやや乏しい薬もあります。
ベンゾジアゼピン系薬剤は、耐性と依存形成の観点から、アメリカでは一時期、一定期間で投与が中止される治療が行われました。しかし、不眠症は減薬や中止で症状が再燃しやすいという問題があり、長期投与に関する治験が積み重ねられました。その結果、近年では、投与量の段階的増大がみられないようなら、慢性不眠症患者の睡眠薬の一定期間での機械的な中止は医学的な理由がないとされるようになってきているようです。
2.心理社会的治療
認知行動療法が有効とされます。不適切な睡眠習慣、睡眠状態の誤認、睡眠に関する不適切な思考を認めて見直し、新しい認知、行動を獲得していきます。効果発現に数週間以上かかることや、最適なセッションの長さ・回数が定まっていないといった問題点がありますが、症状改善効果は薬物治療と同等で、効果の持続も約36ヶ月と長くなります。
不眠の中には「睡眠状態の誤認」と呼ばれるものもあり、客観的な観察や睡眠ポリグラフ検査では十分な睡眠が確認されているにも関わらず、本人は不眠を訴えることがあります。そういった場合でも、薬物療法が、客観的なデータの改善がなくとも不思議と本人の訴えを著明に改善するケースが多いのですが、認知行動療法が特に有効です。

※米国の代表的な精神医学の教科書であるカプランを基に、各精神疾患について解説します。